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世界地図の下書
 7月14日の日曜日、三連休のど真ん中に1人の男がリブロ池袋1階を賑わせた。今最も勢いのある作家の1人である朝井リョウさんだ。彼の新作発売を記念したサイン会が行われた。
 
 「ふがいない僕は空を見た」の窪美澄さんとのトークショー、社会学者の古市憲寿さんとのトークショーに続いて、朝井リョウさんのイベントに参加するのは今回で3回目だ。
 
 いつも通りの水色のシャツに黒色のTシャツという恰好。本人いわく、服に興味がなく、家に関しても家賃7万円で満足しているそうだ。ちなみにいつもメディアに登場するときに着ている水色のシャツはフレッドペリーの1万円弱のもの。テレビ番組で、女優の桐谷美玲さんにインタビューされる時のために購入したそうだ。朝井さんはただの“小説が書ける”それもめちゃくちゃ書ける普通の24歳なのだ。
 
 今回刊行された「世界地図の下書き」は、就職活動を話の軸として用いた「何者」で直木賞を受賞後、初めての発表される作品。 デビュー作の「桐嶋、部活やめるってよ」で鮮烈なデビューを果たし、映画化もされ、その映画が日本アカデミー賞を受賞し、55万部を超えるヒットとなった。今回著者にとって初めて、主要な登場人物が小中学生の物語となる。 

 これまでに登場してこなかった登場人物が多いことから、新境地の作品と捉えられがちだが、「何者」と同じく著者が思う“違和感”」から生まれた作品である。「何者」では就活が物語の大きな軸となるが、そのメインのテーマはSNSによる人間の心の歪みへの違和感だ。SNSをやっている友人を見ていて、実際にあったときの印象と、SNSでの振る舞いが必ずしも一致していない。

 SNS上で人格の方が、リアルの世界の人格に比べて歪みがあり、また本心が見え隠れしている気がする。これはSNSが登場する以前、携帯のメールでの話し方と、直接話すときの話し方が異なる点と少し似ている。
 
 そして「世界地図の下書き」では子供の自殺のニュースに対して『どうしてそこから逃げなかったのだろう』という違和感から物語生まれている。またラストシーンが説得力を持たせるために、話が構成されている点も「何者」と共通している。
 
 単行本で324ページの作品は、デビュー二作目の「チア男子」につぐ2番目に長い作品。「チア男子」ではチアリーディーングの世界観を伝えるために、どうしても説明的な文章が多く、間延びしてしまったが、今回の作品では読者を最後まで飽きさせず、最後のラストシーンまで一直線に読むことができる。
 
 物語の舞台は児童養護施設。それぞれ異なる事情を抱える子供たちの痛みや葛藤を描いている。主人公である小学3年生の太輔、同じ学年の淳也、淳也の妹の麻利、太輔の1個下の美保子、そして6歳年上の佐緒里の5人が中心となる登場人物だ。
 
 アンソロジー『いつか、君へBoys』に所収された、この5人の出会いを描いた「ひからない蛍」を、「三年前」の章として本作に収録し、その後太輔が小学校を卒業する三年後の出来事が描かれている。
 
 児童養護施設の舞台として選択した理由として、子供の自殺のニュースに対して『どうしてそこから逃げなかったのだろう』という違和感をわかりやすく表現できるからだろう。ただ朝井さんと同年齢の私の勝手な憶測だが、2005年の木村拓哉主演の月9ドラマ「エンジン」において児童養護施設が舞台として描かれていたことも、少なからず影響はあるのではないかと思う。
 
 おそらく私たちの世代にとって初めて児童養護施設という存在に触れたのはあのドラマだ。実際に普通に暮らしていて、児童養護施設で暮らしている友達と触れ合う機会はそんなに多くない。いたとしても、気づいていない場合がほとんだろう。
 
 「どうしてそこから逃げなかったのだろう」という考えが生まれたのは、バブルが弾けたあとに生まれ育った私たちの世代だからかもしれない。昔のイケイケの時代だと「負けるな」、「立ち向かえ」などの考えが主流だったかもしれない。
 
 しかし今は違う。そのままの自分でいい。ありのままの自分でいい。そういった考えが主流になってきている。勝間和代と香山リカの相対する考えで、今香山さんに軍配が上がること、柴田トヨの「くじけないで」がヒットしたのもそういった背景にある。「世界地図の下書き」は我々世代が感じる“今の時代”の考えが生んだ作品といえるかもしれない。
 
 これから時代が変わって、また世の中の考え方が大きく変化することがあるかもしれない。その頃にはまた、異なるベクトルから作者はきっと素晴らしい物語を通して、私たちに何かを訴えてくれるにちがいない。


世界地図の下書きの公式サイトはこちら

 
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