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誰も戦争を教えてくれなかった
 福岡の小学校に通っていた私は六年生の時に、修学旅行で初めて長崎を訪れた。ハウステンボス、長崎ちゃんぽん、グラバー園など多くの楽しいイベントが満載のなか、唯一「修学」にふさわしい原爆資料館を訪れた。
 原爆が落とされた時間に止まった置時計が、1945年8月6日午前11時2分に原爆がB29から落とされた事実を静かに、確かに、永遠に私たちに伝えていた。記憶の断片に残っているのは、止まった時計だけだ。それ以外の細々とした戦争の情報は、楽しい思いでに追い出された。修学旅行は面目上何かを学ぶための旅行だが、資料館で流れる説明や掲示物への関心は、校長先生の朝礼程度にしか興味がない、つまりほぼない。
 
 「朝まで生テレビ!」、「新世代が解く!ニッポンのジレンマ」、「NEW WEB24」などメディアの露出が多い古市憲寿さんの「誰も戦争を教えてくれなかった」は、古市さん自身が世界の戦争博物館を練り歩いて考えてきた長編の評論だ。
 「絶望の国の幸福な若者たち」、「僕たちの前途」と同様に講談社より出版されており、軽妙な脚注が面白い。例えば冒頭17Pの“政治的な理由でなく、ただ単にタイや台湾へ行く用事がなかったからである。”の脚注として「台湾に小籠包食べに行きたい。誰か行かない?」と書かれてある。
 上記の脚注を読んだだけだと「ふざけた本だ」と憤慨するかもしれないが、本の内容は文章こそ軽いものの、文章以上に軽いフットワークで世界を駆けまわって得たリアルな情報が散りばめられており、的確に論じている。
 
 そもそも本書の執筆のきっかけは偶然の産物だ。著者が観光で訪れたハワイで「暇だから」という理由で訪れた「アリゾナ・メモリアル」においてその展示が犠牲者を弔い、戦争を肯定するものだったからだ。日本をバッシングするでもなく、勝利を祝う空間だ。同じ戦争でも国によって、歴史の残し方が大きく異なることに興味をもったのだ。
 では実際に私たちの国の戦争博物館は、何を若い世代に伝えてきただろうか。博物館の内容は海外にそれとは大きく違う。日本の施設の多くは、起きたできごとを事実として残すことに不熱心だ。収集し分類し保存し研究するというよりも、慰霊のための建造物的な要素が強い。
 なぜ事実を残すことに不熱心かというと一つの大きな理由がある。事実を博物館に残すということは、国としてあの戦争に一つの解釈を与える必要があるからだ。侵略戦争だったのか、日本は正しかったのか。そのような事実をいまだにはっきりとさせないのが日本の行政だ。戦争が終了して65年以上がたった今でも結論が出ていない。きっと今後も出てこないだろう。
 
 本書の最後で古市さんは、現在大人気のアイドルグループ「ももいろクローバーZ」と戦争について対談する。まず初めに小学生・中学生・高校生向けのワークブックから全20問の戦争に関するテストを解いてもらい、答え合わせしながら話を進めていく。
 テストの結果は散々で終戦を迎えた年を「1975年」と答える子もいる。しかし笑ってばかりではいられない。2000年にNHKが実地した世論調査によると「日本が最も長く戦った相手国」、「同盟関係にあった国」、「真珠湾攻撃の日」、「終戦を迎えた日」の全問に正解した人は16歳以上で18%、1939年以前に生まれた人たちでも27%にとどまる。
 つまり私たちはみんな戦争に興味がなく、国としてもきちんと戦争を教えていかなかったのである。ただこの事実に関して著者は肯定的だ。失われた記憶を無理に一つにするのは困難で、70年近く平和でやってきた記憶の方が共有されている。そこから始めていけばいいのだと。戦争を知らないことはのん気なことかもしれない、でも「希望」かもしれない。
 
 最後に本の中に溢れる著者の友人への優しい気持ちを紹介したい。本書の中で直木賞作家の朝井リョウさんの「世界地図の下書き」を脚注で紹介している。戦争にい巻き込まれた若者たちが「あたしたちはあたしたちみたいな誰かとまた出会えるんだよね」と言って別れるシーンが良かったそうだ。近未来ファンタジー小説だそうだ。古市憲寿さんの優しさが垣間見える脚注だ。


 
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201309220112
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